アカシア書房

おやすみ、スターダスト

#04 ぶてぃっく

 この街を歩く人たちの装いは、大まかに二つに分けることができる。白いものと、そうでないもの。どうして白い服を着ている人が多いのだろうという疑問の答えは、連れられたブティックにあった。
 薄暗い店内に陳列されているのは、白い服、白い靴、白い帽子。街を飾り立てている花と同じ色の衣料品が、圧縮されることなくゆったりと並べられていた。もしかして、と口にした私の意図を汲んで、エリーが答えてくれる。
「ああ、この街の服屋にはこの色しかないみたい」
 僕が確認した限りではね。そう続けて、彼は店の扉を閉める。売り物と同じ真っ白なローブを着た店員が、一瞬だけこちらを見て、また俯いた。被っているフードのせいで、顔はよく見えない。ここは店の人が積極的に声をかけてくるタイプの店じゃないみたいだ。私は押しに弱いので、そのほうがありがたい。
 売り物はどれも似た素材でできているらしく、みな星屑灯の光を受けてきらめいていた。星屑を散りばめたような……というほどまばゆくはないけれど、夜の闇によく映える色であることは間違いない。デザインも私好みのものが多くて、心が躍ってしまう。
「かわいいところ、探してくれてたんだね」
「まあ……下調べしたってわけじゃないけど、ラビが好きそうなのが多い店だなってのは覚えてたから」
「そっか、ありがと」
 うん、よくわかってるね。趣味ばればれだね。それだけ私を見てくれているんだなあ、ということが嬉しくて、にやけてしまう。そんな私を、彼はどこか嬉しそうに見守っていた。
「エリーは服見なくていいの?」
「僕はもう買ったから」
 彼がつまんでみせたシャツは、街中に咲き乱れる花と同じ色をしていた。その上に着けているベスト(こっちはたぶん自前)とのコントラストで白さが映える。よく似合っていると思う。少女向けの物語に出てくる王子みたいだ。
 そんな王子に見合う姿になるべく、私は新しい服を見繕う。見比べて、体にあててみて、サイズを確かめて。そういえばこの店、試着室ってあるんだろうか。いくつか選んでから店員に尋ねてみると、黙って店の奥へと案内してくれた。
 礼を告げて小部屋に入り、服に袖を通してみる。素肌に触れる布地はなめらかで、肌に吸い付くかのよう。いったい何でできているんだろう、と思いを馳せながらブラウスのボタンを留め――あっだめだこれ、動いたら弾ける。胸のところが。ギリギリいけることを期待したんだけど無理だった。
 ブラウスとそれに似合いそうなスカートを諦めて、今度はワンピースを着てみることにした。これは紐で締めるタイプだから大丈夫。何もおかしなところがないことを鏡で確認してから、小部屋の扉を開けた。店の品を見て暇を潰していたらしいエリーが、私の足元から頭までを視線で撫でて、そのまま固まった。
「えっと……何か変、だったかな」
「変じゃない。似合うよ。すごい似合う。似合いすぎてその、びっくりした」
 照れくさそうに頬を掻く様子を見るに、このチョイスは大正解だったみたい。その場でくるりと回ってみせると、長い裾がふわりと膨らんだ。エリーはその様子を見て、うん、うん、と頷く。腕を組む姿がなんだかおじさんくさい。
「じゃあ、これにしようかな」
「いいと思う。せっかくだし合わせるものも選んできなよ」
「うんっ」
 言葉に甘えて、ワンピースにぴったりの靴と首飾りも選んだ。今日はすべてエリーの奢り。そもそも私はこの街の通貨を持ち合わせていないのだから、頼るしかなかった。何の用意もないまま連れ回されることになったんだから仕方ないと思うことにする。
「そういえばエリーはどうやってお金用意したの? まさかこんなところに来てまで働いてたんじゃ」
「さすがにそれはないって、換金してもらえるものが手元にあったんだよ」
「ふーん……」
「うっわ超疑われてる気がする」
「疑ってる」
「デート中ぐらい信じて!?」
 信じてと言われても、日頃の行いを思い出すと素直に頷けない。この高性能眼帯スタンド、休むと決めた日にも労働まがいの何かをしてることが少なくないんだもの。こないだだって、誰かに頼まれたからって延々と紙を折る作業を手伝っていたし。そんな調子だから編集長にも無茶振りされるの!
 私の仕事も激務といえば激務だったけれど、それでもエリーが背負わされている役割と比べると楽だと思う。祭りの取材と短期労働の取材じゃ、ねえ。とにかく今はその役目を忘れてほしくて、私は買ってもらったばかりの服に着替えて街を歩くことにした。今まで着ていたものは処分してもらうことにして。袖を通すことはもう二度とないだろうから。
 新しい服に身を包んだ私を、エリーはとても楽しそうに外までエスコートしてくれた。ふわふわした純白の服、私の手を取って導いてくれる大切な人――まるで、旅先で見た、
(花嫁衣装みたい)
 心のうちで呟くと、胸に熱いものがこみあげた。エリーが身につけているものも、いつもとは違う堅苦しさといっそうの清潔感があって、どことなく花婿を思わせる。図らずしてお揃いになってしまったみたい。
 他の何もかもを置き去って、彼のそばに寄り添えたなら。彼を永遠に独り占めすることができたなら。ぼんやりと考えては、できない、ありえない、と否定していた夢が、今は目の前にある。こうやって私を迎えにきている。
「ね、エリー」
「何?」
「私たち、ずっと一緒だよね」
 歩きながらぽつりと問う。愛しい人は、私の肩と一緒に不安まで優しく抱き込んで、
「もちろん」
 と力強く答えてくれた。