「そういえばこの先に出店があるんだ。なんかフワッてした、謎な飯の」
「謎……謎って言われても」
「ミュゼならなんだかわかるかもなあ」
食べ物に詳しい同僚の顔が脳裏をよぎる、けれどもここで頼ることはできない。お土産にできそうにもないし。件の出店は少し歩いたあたりで見えてきて、数人が並んでいた。
「行ってみる?」
「んー……エリーはもう食べたの?」
「ああ。霞を食べてるみたいな感じがして、味はあまり無くて、食感を楽しむみたいな……ふわーっと……」
「ほへー」
少なくとも不味いものではないみたい。彼の説明で興味がわいた私は、謎のご飯とやらをつまんでみることにした。
「買ってこようか」
「ううん、私も一緒に並ぶ」
思考を目の前の出店に戻して、私たちは短い列へと並んだ。出店と行ってもテントや移動式の店舗があるわけじゃなくって、煉瓦積みのかまどで鍋料理を作っているだけみたい。ぐらぐらと煮え立っている大鍋は、かなり年季が入っているものだって、薄暗い中でもわかった。その中に浮かんでいるものは……なんだろう、揚げ菓子? 餅? こぶし大の丸いものが、スープの中でくるくると踊っていた。独特な香草の匂いがする。
「二本ください」
エリーが注文をする様子を、私はただ黙って見ていた。この世界の通貨は持っていないから、用意があるという彼に頼るほかはなかった。硬貨を受け取った店主のお爺さんは、それをポケットにしまいこむと、串を手にして鍋の中身を付いた。魚でも獲っているかのような素早さ。引き上げられた串には謎の塊が二つずつ刺さっていた。
お礼を告げて列から外れ、茹でたての何かを観察する。串に刺さった塊は半透明で、弾力のある身をぷるぷると揺らしていた。薬草のような香りが鼻の奥をくすぐる。すこし、きつい。
「これ、本当に食べていいの?」
逡巡する私の手に、お団子のようなものの汁が滴る。ずいぶんと勢いよく煮えていたはずなのに、しずくは意外にも熱くなかった。
エリーはそんな私に見せるように、大きく口を開けてぷるぷるを齧ってみせる。少し噛んでから、喉仏が脈打つように一度動いた。
「ここまで来ちゃったんだし、食べておこう」
「……ん」
頷いて、お団子(のような何か)を食む。おっかなびっくり啄むように。口に含んだ途端、弾力のある何かはふわりととろけてしまった。口の中に残された、液体とも気体ともつかないものを呑み込むと、草の香りとほんのわずかな塩味だけが残った。
「うん、確かになんだかこう……説明しづらい味」
「でしょ」
旅先で不思議な食べ物に出会うことは多々あったけれど、これはまだ口にしたことのないもののはず。うんうん唸りながら残りを食べる私を、エリーは慈しむような眼差しで見守っていた。私が食事しているところを見るの好きだよね。見ていたくなる気持ちはなんとなくわかる。
その後、これは結局何だったんだろうって気になって、列が絶えた隙を見計らって出店のお爺さんに訊いてみた。ぶっきらぼうに答えてくれたことには、これは水餅というらしい。なんでも河の水から作っているんだとか。
ふと水面を見てみる。かたちの違う二つの月が、私と隣の彼のように寄り添って揺れていた。