アカシア書房

アカシアファミリアス

#19 No.3 ミュゼロット

No.3 『食物』の記者 ミュゼロット
ミュゼロット アカシア書房の社屋裏、常闇の地を照らす背の高い魔術灯の下で、炭火焼き用のコンロを扇ぐ後ろ姿が見える。飯の気配に引き寄せられて外に出ると、その女は俺を見て屈託ない笑顔を浮かべた。
「お、ロッシェも食ってく?」
「何焼くんだよ」
「これこれ」
 そう言って、ミュゼは傍らに置いてあった薄い袋から、柔らかいパッケージをいくつか取り出した。そして封を切り中身を次々と鉄鍋に注ぐ。獣肉の色をした顔もヒレもない小魚のようなものが、澄んだ汁の中で野菜の間を縫って泳ぎ始めた。
「……なんだこれ」
「肉魚の踊り食い鍋」
 フォークを渡してくるミュゼの顔は得意げで、いつも通りの好奇心と食欲で満たされている。
 鍋を軽くかき回すと、水面が魔力を散らしながら輝いた。
「キメラ食材ばっか食ってるとまた体壊すぞ」
「その時はその時だって。無難に元気に生きるより、何回か死にながらでも新しいもん見つけたいじゃん」
 それにさ、と付け加えながら、煮立って色が変わり始めた肉魚をつつく。女にしては大柄な、引き締まった身体を屈める姿はなんだか眩しくて、つい目を逸らしてしまった。
「それがあたしらがいる意味だしね」
 悲嘆するでもなく、ただ事実を告げるように。
 話はそれで終わり。ミュゼは頭の悪い掛け声と共に肉魚を突き刺して、少し尖った歯で豪快に齧りついた。うまっ、と声をあげる様子を間近で見て思い出す。この顔が好きだったんだよなあ。
 こみあげた懐かしいものは、熱の通った食材と共にフォークで刺し、また腹に収めた。