ランジェマ 導入されたばかりの新しい製本機の調子は良さそうだ。地下の印刷施設で唸りをあげている装置を眺めながら、俺は安堵の息をついた。搬入を手伝った身として、その際に傷つけていなかったかが心配だったゆえに。
設備は変わっても、それに向かう奴の様子は変わらない。地味な色の作業用ツナギを着たランは、ただ黙々と製本作業を進めていた。装置と使い魔を効率的に使いこなすこと、そしてその二つではカバーできない作業をこなすのがこいつの役目だ。
地下で来る日も来る日もこの作業を続けているんだと考えると気が滅入りそうだが、本を作るために造られた存在はそれを苦としないようだ。
「何か手伝えることあるか?」
「もう無い」
「おう、それじゃあな」
これ以上は作業の邪魔になりそうだ。と思い、地上に戻るべく歩みだした俺だったが、不意に後ろから呼び止められた。何かを思い出したらしい。
「やはり作業着の補充を頼んでおいてくれないか。汚れがひどくなってきた」
「わかった、伝えとくわ」
軽く手を振って工房を後にした。そういえばあいつと仕事のこと以外の話をしたことがない。個人的な集まりに誘ってみたことも何回かあったが、全て断られて以来それっきりだ。
扉を閉めるときに隙間から見えた、一切の表情のない顔は、ランもまた工房の一部であるのだということを再認識させてくる。それが親近感を呼ぶ。
人間味があるかどうかの違いはあるが、俺だって結局は同じようなものだ。