リコヴェズ 曲がり角の向こう、エントランスのほうから近づいてくる足音。小刻みなリズムはその主が誰なのかを教えてくれる。
廊下の真ん中に立ち止まって待つと、予想通りの顔をした奴が角を曲がってこちらに向かってきた。やっぱりお前か。リコは俺の姿を認めると眼を輝かせ、
「ロッシェだぁー!!」
と叫びながらそのまま減速せずに突っ込んでくる。軽く脚を開いてやると、そいつは躊躇なく伸ばした手からその間に滑り込んでいった。ざざあっ、と若干痛そうな音をたてて床を滑ったあとは、勢い良く立ち上がって擦れた服をはたく。だからペコの仕事増やすなって。
「満足したか?」
「うん!」
この遊びは何度も繰り返しやったものだが、金玉に頭突きを食らったことがあるので毎回ひやひやする。いつも滑り込み方に躊躇がないのは、性別がないゆえにこの痛みを想像できないからだろうか。大事なものなんだぞ、性器。
「もう廊下走んなよ」
「今日はもう走らない」
「明日以降も走るな」
叱ると「うん」と頷いてみせるが、明日を待たずに忘れていそうな気もする。見た目は少年少女の域を過ぎているのに、その言動と行動はやけに幼い。無鉄砲にするためにそう設計されたのだろう。
「じゃあ親分に成果見せてくるねえ!」
リコがポケットから取り出して見せた手帳には、あいつが自ら出向いた異世界の情報が詰まっている。それらはここのデータベースに登録される他、ボスがひときわ興味を示すような場所があれば、そこを訪ねるよう記者陣に司令が下りる仕組みだ。
今回の収穫に過酷な場所についての情報がないことを、ただ願う。