アカシア書房

アカシアファミリアス

#14 No.6 ヴァネッツ

No.6 事務員 ヴァネッツ
ヴァネッツ「お帰りなさい、お疲れ様です」
 この何の変哲もない挨拶を聞くと、一仕事終えて帰ってきたんだという実感が湧いてほっとする。ただいま、と返して、俺の名前の下にかけられたプレートを裏返す。『在室』と書かれた面がエントランスの灯りに照らされた。その様子を、ヴァンはカウンターデスク越しに見届ける。
「荷物、ちゃんと渡せました?」
「どうにかな。あとこれ、お土産貰った。残りは休憩室に置いとく」
「ありがとうございます。あ、これ美味しそう」
 化粧箱から取り出した茶菓子を渡すと、ヴァンは瑞々しい笑顔で応えてくれた。少年と言っても差し支えのないだろう若い顔を見ていると、同僚たちの中でも年上なほうだということを忘れそうになる。誰に対しても腰の低いその姿勢も相まって。
「あとで食べようっと」
「そういやそろそろメシの時間か、一緒に行くか?」
「じゃあ少し待っててください、今やっていたのを書き上げてしまうので」
 そう告げて視線を机に戻し、書きかけの書類の続きに取り掛かった。事務と受付を兼任しているものの、アカシア書房に客が来るのは稀なことなので、だいたいいつもこの調子だ。
 こいつが高めのカウンターデスクから顔を出す姿は、ここの構成員たち――特にハードな外回りばかりの記者班にとって、無事に帰って来れたことを実感させてくれるものとなっているらしい。
「今日は特に頭使ったからお腹空いたんですよー」
 我が社の小さな灯台が、書類の相手をしながら笑った。