アリアブライルン 手紙を差し出すと、アリアは手にしていた本を閉じて封筒をしげしげと見つめた。うっすらと刷られた花模様の上にセレストラ語で宛名が記されている。
「どうしたの、これ」
「ファンレター。前に仕事で知り合った奴から預かったんだよ」
神妙な顔をして受け取り、開いた便箋に目を通す。長いまつ毛の下で瞳がせわしなく動き、丁寧な字で三枚に渡って書かれた文面を追った。
便箋を全てめくるまでにかかった時間はほんの僅かで、穏やかな微笑みだけが残った。全てはテーブルの上の茶菓子ひとつを勝手に齧っている間に終わってしまった。貸した本を即日感想付きで返しにくる女だったということを思い出す。
「ありがとう、こんなの貰ったの初めてよ。できるなら返信を渡してもらっても良いかしら」
「それは良いけど、その……もっとゆっくり読まねえの? せっかくの手紙だし」
「嬉しいと気が急くじゃない」
「気が急いたとかそんなレベルじゃなかったぞ」
「とにかく少し待ってて、お菓子全部食べていいから」
納得のいかない顔をしているだろう俺の前で、アリアは早速ペンと便箋を持ち出して返事を書き始めた。流麗な字を綴る所作のとにかく早いことといったら。華奢な手の動きは魔術じみている。指先が少し黒ずんでいるのは、数えきれないほど読んできた本のインクが染み付いてしまったかららしい。
長々と考えこんでもアホみたいな文しか書けない俺と違い、こいつは何より文字と言葉を愛し、愛されている。毎日拝めばその恩恵を受けられたりしないだろうか、とぼんやり考えながら焼き菓子をもうひとつ口に放り込んだ。