クリーズ 物置に押し込められた家具やら何やらの隙間に、布を被った何かが挟まっている。しゃがんで覗き込むと、座り込んでいたクーと目が合った。漆黒の瞳には怯えが浮かんでいる。
「な、なんだ、ロッシェか……びっくりした」
「なんだとはなんだ、こんな所で何やってんだよ」
「逃げてきた……」
声はか細く聞き取りづらい。不摂生極まれりといった顔色をしているそいつは、アカシア書房が有する『写本機』だ。こいつが本を写す動きを使い魔に正確にトレースさせることにより、手書きの本でありながら量産ができる体制を作っている。
「今度は何ボイコットしてるんだ」
「風呂」
ぼそりと告げて、身を守るように手にしていた布を深く被った。人の姿をしていながら設備扱いされているのはどうかと思うが、こいつ自身はその待遇に満足しているらしい。曰く、写字さえしていられればいい……とのことだが、それにしたって人としてポンコツすぎる。世話をしてやらないとメシさえまともに摂らないのはどうなんだ。
「一昨昨日入ったばかりなのに、ダナが厳しくて……」
「いやせっかく自社にいるんだしもっと入っとけよ、本にフケ落ちるぞ」
「頭に布巻いてやってるから大丈夫」
こりゃ説得は無理だな。そう見切りをつけて、俺はいつもの術を起動した。宙に倉庫とは違う部屋の様子が現れ、揺らぐ。異様に軽いクーの身体を持ち上げてその中に放り込む。
「ひっ!?」
「悪ぃな、俺もあいつの手先なんだ」
悲鳴が聞こえた気がしたが、空間の揺らぎを閉じるとまた静かになった。ちゃんと洗われてこいよ。