シャノフィ 脚が痛い。何食わぬ顔で編集室に入ってきたそいつに気を取られてデスクにぶつけてしまった。
「どうしたんだい、大丈夫?」
「お前のせいだよ!」
不思議そうにこちらを見る男には頭髪がないが、それは元からだ。日替わりで違うウィッグを着けているこいつは、今日はよく手入れされたスキンヘッドを見せたい気分らしい。
問題はその下、襟のないシャツの胸のあたりから、魚の頭のようなものが飛び出していること。服に縫い付けられているらしいそれはなかなか精工で、かなりリアルに目が死んでいる。更に背中には魚の下半身が生えており、体を貫通されているかのように見える仕組みになっていた。
「ああ、これか! これは今サンクトゥーリアのベルレネイで流行っているものでね、記事にする前に着心地を確かめておこうと思ったんだ」
「……邪魔じゃね?」
「それが意外にも邪魔じゃあないんだ。おかげで着ていたことを忘れて部屋から出てしまってさ。あと座った時に机との間隔ができて自然と姿勢が良くなるし、何より茶目っ気が」
シャノは細い目を更に細めて楽しそうに語る。こいつが衣服や装飾品によせる興味と執着はすごいが、多種多様な価値観に触れすぎて美意識が迷走しているようにも見える。今回のものはまだまだかわいいほうだ。
「しかし皆が仕事に集中できないなら脱ぐかなあ」
「いや着てようぜ、俺も他の奴の反応が見たい」
人を楽しませることは、服の大事な役割の一つさ――そう言っていたことを思い出す。
さて、同僚たちを待つか。