アカシア書房

アカシアファミリアス

#04 No.14 ディーレ

No.14 『乗物』の記者 ディーレ
ディーレ 晴れやかな空の下、せわしなくペダルをこぐ音が響き続ける。それに穏やかな波と水鳥の鳴き声が重なり、俺の心を癒やす――ことはなかった。
 俺たちが乗っているのは、湖を遊覧する足こぎ式の小舟。不細工な魚の形をしたそれを、よりにもよって肉体派の男二人で虚しく動かしている。二人じゃないと絶対に乗せて貰えないから、という理由で俺を呼んだディーは、同じ型の小舟に乗ってじゃれあうカップルを死んだ魚の目で眺めていた。いつもの威勢の良さは湖に落としてしまったらしい。
 俺を兄のように慕ってくれているのは嬉しいが、それにしたって男二人でこれはどうなんだ。
「……なあ、誘える女とか本当にいなかったのか」
「今更何言ってんすかいるわけねえっすよ」
 乗れそうな乗り物は何が何でも乗ってみなきゃならん奴は大変だな。とは思うものの、それでも訊かずにはいられなかった。湖で遊ぶ他の客たちの視線が痛い。
「例えばゾルとか、ミュゼとか」
「ゾルには今忙しいって切り捨てられたし、姉御には大爆笑された挙句クソ面白いからって理由で断られたんすけど」
「ごめん」
 反射的に謝ってしまっていた。貴重な後輩にスルーされ、書房一股のゆるい女にも断られたんじゃあ確かにどうしようもない。アホで元気がある良い奴なんだが、アホで元気があるのがいけないのか。いつも変な柄のシャツを着てるからだろうか。
 兄離れできていないのがモテない原因なのかもしれない。思い切って湖面に投げ込めば巣立つか?