アカシア書房

ファンタスティック・ワーキング

#08 エピローグ

 ノートに綴られた文章を読み終えた後、男は立ち上がり深く礼をした。
 下げた頭に降りかかるのは、強い風の音に似た鳴き声の群れ。顔を上げると、目の前を陣取っていた手も足もない生き物と目が合った。その隣には六本の手足を備えた生き物が、逆隣には十本ぐらいの細長い触手を頭の下から直接生やした生き物が。更にその隣にはまた異なる形をしたものが。聴衆は皆体の色も形もばらばらではあるが、頭に角のような突起を生やしていること、そして顔の真ん中に大きな一つきりの目を備えていることは共通していた。
 自らと姿形も表情の作り方も違う相手を前に、読み手は何かしらの顰蹙を買ったのではないかと内心肝を冷やしていた。しかしそれは杞憂だったようで、単眼の聴衆たちは風に似た音を発しながら手足をばたつかせたり体をくねらせたりしている。これが喜びの表現であることは、先日ここで話をする約束をた際に学んでいた。
 過去のデータを引っ張り出して急いで台本を作った後、この話は果たして伝わるのだろうかと不安に思った箇所もあったが、単眼の者達は以外にも文明に聡かった。水晶球のような道具で話を録音していた者もいたぐらいだ。彼ら自身は辺境で質素な生活をしているが、外から持ち込まれるものへの拒絶感は無いらしい。と言うことを、僕と時を同じくして集落を訪れていた行商人から聞いた。彼は二つの目と二対の翼を持っていたが、特に疎まれることもなく住人たちの中に溶け込んでいた。
 とにかく、彼らに頼まれた「外売り」の仕事は終わり、男は安堵の息をついた。外売りとはその名の通り、外界の話を売る者のこと。歩くだけでは一生かけても辿りつけない異世界から来る者は他にもいるそうだが、そう多くはない。偶にしか訪れない外売りの話を聞き遂げた子どもたちは、興奮のあまり飛び跳ねながら奇声をあげ、読み手を取り囲んだ。
「スゴイ! フジミ! ツヨイ!」
「そんなようなものだけど強くはないさ。僕だって怪我するととても痛い」
「アタマ、ナオタ?」
「心配ありがとう、もう大丈夫だよ。この通り」
「ネコカイテ、ネコカイテ」
「ああ、後で何匹でも」
「ホシ、ベッベハ、ベッベ!」
「ごめん、君は何言ってるのかちょっとわからない……」
 最も小さな一体が背中にしがみついてはしゃぐ。重たくはあるが悪い気はしなかった。
 子どもたちに集られる男の目の前で、大人たちが宴の準備を始めた。ここの料理は非常に味の薄いものばかりだが、それでも空腹というソースをかければありがたくいただけるはずだ。もてなされるのは純粋に嬉しい。時折飛び跳ねながら机や食事を運ぶ住人たちの姿も微笑ましい。
 各地を旅する中でろくでもない目に遭うことは多いが、喜ばしいこともこうして巡ってくる。荒む心をやさしく撫でてくれる。
 そう、今日は本当に――良い仕事をした!

(職歴四二九・外売り)