アカシア書房

ファンタスティック・ワーキング

#01 プロローグ

 乾いた空気が喉を嬲り、粘膜を少しずつ弱らせてゆく。男はその気候に抗うべく、差し出された茶のようなものを一気に呷った。いびつな器になみなみと注がれていた液体は、茶色く、ぬるく、強い草の匂いがする。口に合うものとはとても言えないが、それでもこれを淹れてくれた者のもてなしの心は受け取りたいと思っていた。
 深呼吸して見上げた空は薄桃色に輝き、赤い雲があちこちに漂っている。少し離れた場所には丸みを帯びた建物の群れが、更にその遠くには荒涼とした山々が連なっている。資源も娯楽も乏しそうな小さい集落だ。だからこそ、ただ経験談を語るだけの舞台に、こんなにも多くの住人が集まったのだろう。ざっと見て総人口の半数以上はいる。
 大きな石の上に座り、客の視線を一手に引き受けているのは、黒い服に身を包んだ細身の男だった。顎の下でまっすぐに切り揃えられた髪が、服装と相まって几帳面さを演出し、そこに右目を隠す眼帯が物々しさを添えている。顔立ちは中性的でどこか作り物めいて整っていた。
 男は手にしていたノートを開き、紙面と聴衆の顔を交互に見やる。長い睫毛の下、蒼穹を繰り抜いて作ったような瞳には、確かな緊張が揺れていた。それを払うために一度だけ強く目を瞑り、こほんと咳払いを一つ。そして人の好さそうな笑顔を浮かべ、落ち着いた声で語り始めた。
 好奇に輝く二五の目が男を射抜く。すらりとした指がページを捲り、唇が物語を紡いでゆく――