深呼吸して見上げた空は薄桃色に輝き、赤い雲があちこちに漂っている。少し離れた場所には丸みを帯びた建物の群れが、更にその遠くには荒涼とした山々が連なっている。資源も娯楽も乏しそうな小さい集落だ。だからこそ、ただ経験談を語るだけの舞台に、こんなにも多くの住人が集まったのだろう。ざっと見て総人口の半数以上はいる。
大きな石の上に座り、客の視線を一手に引き受けているのは、黒い服に身を包んだ細身の男だった。顎の下でまっすぐに切り揃えられた髪が、服装と相まって几帳面さを演出し、そこに右目を隠す眼帯が物々しさを添えている。顔立ちは中性的でどこか作り物めいて整っていた。
男は手にしていたノートを開き、紙面と聴衆の顔を交互に見やる。長い睫毛の下、蒼穹を繰り抜いて作ったような瞳には、確かな緊張が揺れていた。それを払うために一度だけ強く目を瞑り、こほんと咳払いを一つ。そして人の好さそうな笑顔を浮かべ、落ち着いた声で語り始めた。
好奇に輝く二五の目が男を射抜く。すらりとした指がページを捲り、唇が物語を紡いでゆく――