空間跳躍したばかりの未知の領域で、フォグは二人の仲間と共に探索の先駆を務めた。
残る三人で拠点に残り、物資の無事を確認していたモーリェは、帰還したフォグを見上げて目を丸くしたのだった。
「大きい……」
「でしょ?」
得意げな笑みを浮かべる顔は遠い。
フォグの擁する生体武装、篭絡端子によって取り付けられた彼自身のものではない手足は、人間のものに似ている。しかし半端な類似点があるゆえに不気味に見えた。
指は六本、肌は青白く血管が目立ち、何より――長い。あまりの脚の長さゆえに、股間とモーリェの頭が同じ高さになってしまうほどに。
腕もまた異様に長く、胴の長さと不釣り合いであるために、直立した状態で膝に手がい届いてしまっていた。
「こんな感じのひょろ長い殲獣がいくつもいてね」
「クソ長い腕が四本あるやつな。シュテのド失敗作って感じのがうろついてら」
「そう、シエロが粘土で作ったシュテって感じのやつが……」
「どさくさに紛れて人の芸術センスけちょんけちょんに言うのやめてくんない? イゾラも同じようなもんじゃーん」
「俺は塊から削り出せばなんかそれっぽいの作れるしぃー」
「うっわセコっ、男は黙って土こねるべきだよう、土こねない男は三流」
にわかに賑やかになった拠点(今回は屋外だったのでテントを張った)を前に、フォグは長すぎる脚を地につけて屈みこんだ。そして六本の指がある異形の手をモーリェへと差し出す。
視線を交えれば、言いたいことは伝わった。脚の間に踏み込んで身を委ねると、フォグは少年の小柄な身体を抱き上げ、「よっ」と声をあげながら立ち上がった。
見える景色が途端に変わる。モーリェはフォグの首にすがりつきながら、いつもより高い場所から仲間たちを見下ろした。
立っている仲間たちのつむじを覗くのは新鮮味がある……が、それよりも面白いものは、やけに自慢げなフォグの表情だ。
「楽しそうだね」
「うん、すごい楽しい」
いつしかの彼の言葉を思い出す。そのうちモーくんにも背丈抜かれちゃうかもね、と。
あの時のどこか寂しそうな笑顔には、身長をめぐって複雑に絡んだ気持ちが籠っていたのだろう。
異形を活かした強引な方法ではあるが、闘人内最長身の座を一時的にもぎ取った青年の顔は、輝いていた。
「たまには皆を見下ろして若白髪とか見つけ……うぉお!?」
「ひっ⁉」
「へぶっ!」
かりそめの長躯が揺れる。少年一人の体重を支えていられるほど、フォグはこの手足に慣れていなかった。つい先ほど奪ってきたばかりなのだ。
踏みとどまろうとした片足が、腐りかけた大きな枯葉を踏んで滑る。伸ばした手は地面ではなくシエロの身体を捕まえてしまう。
三人は短い悲鳴をあげて、盛大に地面へと倒れこんだ。
その音に、大型テントの下で物資を数えていたジンリンとシュテルンも駆けつけてくる。
「敵襲か!?」
「何があったんです?」
「あー、俺が雑にオモチャをやったばっかりに」
イゾラが若干申し訳なさそうに答え、手ずから殲獣から斬り落とした長い手足を、そしてそれを取りつけた後輩を見やる。
抱いた少年を守り、地面に強く背を打ち付けてなお、フォグの表情は晴れやかだ。イゾラは「まーいいか」と笑い、居残り組に昼飯をねだった。