古着が入った紙袋の一番下に沈んでいたそれは珍妙な形をしていた。肌にぴったりと沿う薄い素材でありながら、つなぎのように身体全体を覆う形になっている。顔までをすっぽりと隠しつつ、股間と両の乳首の周りだけが丸く露出するように作られているのだ。
他の服も肌を晒すよう作られているものが多かったが、これはその中でも明らかに異質だった。
しかし少年はそれが単なる笑いの種なのか、それとも性の営みに役立つものであるのかを判断できないでいた。
テオバルトは今でこそ一対の巻き角と黒い翼、および先の尖ったしなやかな尾を備えているが、つい先週まではそのどれもを持たない人間だった。ある野望のため、人の身ながら淫魔の学び舎に身を寄せ、人であることを捨てたのだ。
しかし身体と共に精神もすぐに順応するというわけではない。少年は妙ちきりんな服を手にしたまま、生粋の淫魔なら着こなせるものであるのかを探っていた。端正な顔が渋く歪んだ。
「なあ、これどう思う」
学生寮の一室で生活を共にしている仲間に問う。テオバルトと同様に見目麗しい顔立ちをした少年が、件の服を手に取り、ひっくり返したり伸ばしたりした。
「なんだこのアホみたいな布」
「やっぱそう思うよなあ! でもさ、俺が知らないだけで何かこう……とんでもなくエロい使い方があるんじゃないかって気がして……」
「あー、そう言われると僕も自信なくなってくる……」
二人は顔を見合わせて唸った。相談を持ち掛けられた方の少年もまた、人間であることをやめたばかりであったために、淫魔としてのものの見方を理解しきれずにいた。
「じゃあとりあえず着てみるか」
「テオ、時々意味わかんないぐらい度胸あるよね」
友に見守られながら、一度裸になり怪しげな服に袖を通す。予想通り、服は翼と局部を除く身体のほぼすべてを覆ってしまい、視界もすっかり奪われてしまった。布越しの世界が明るいかそうでないかがわかる程度だ。
するとその時、ドアをノックする音が響いた。部屋の主たちの返事も待たずに、勝手知ったる顔で入ってきたのは、愛らしい姿の少女だった。学校の寮は一応男女で分けられてはいるが、性の営みを何より重要とする種族の性質のため、異性による訪問は自由だった。
「ねーねー、ちょっと誰か精気わけ……」
少女は言葉を失った。決して広くはない部屋の真ん中に、形容しがたい姿をした何かを見つけてしまったために。
何も見えないながらも声で友人を判別したテオバルトは、彼女に審判を任せることを思いついた。親しい友であると言えるこの少女は、自分とは異なり生まれながらの淫魔なのだ。
「ミミアン、この服エロみある?」
「お股干上がるぐらいクソダサい」
件の服は、勢いよく陰茎を振り回す下劣な宴会芸のためのものらしい。
後日その事実を知った少年は、早く洗練された真っ当なインキュバスになりたい……と繰り返し零しながら、部屋の隅で膝を抱えた。